ケロイドについて

ケロイドは、皮膚の奥深くにある真皮層で炎症が長く続くことで発生する病変です。この持続的な炎症によって、傷跡の繊維成分が過剰に増殖し、元の傷の範囲を超えて赤く盛り上がった組織が広がるのが特徴です。強いかゆみや痛みを伴うことも多く、身体のどの部位にも発症する可能性があります。

これに対して、元の傷を超えて広がらない状態は「肥厚性瘢痕(ひこうせいはんこん)」と呼ばれます。

ケロイドと肥厚性瘢痕は見た目が非常によく似ており、外観だけでは判別が難しいケースが多いですが、治療への反応や再発のリスクには大きな差があります。

ケロイドは自然に治癒することが少ない一方で、肥厚性瘢痕は数ヶ月から数年の経過で徐々に白く柔らかい傷跡へと変化し、自然に目立たなくなるケースも多く見られます。

ケロイドの原因

ケロイドの主な原因は外傷です。
切り傷や擦り傷などの怪我をきっかけに発症するケースが多い一方で、ニキビや毛嚢炎といった皮膚疾患、ピアスによる感染、リストカットの傷跡、帯状疱疹、BCGワクチンの接種痕なども原因になることがあります。
また、次のような条件が重なると、ケロイドが発生しやすくなることが分かっています。

傷が深い場合

皮膚は「表皮」と「真皮」で構成されていますが、特に真皮の奥深く(網状層)まで損傷や炎症が及ぶと、ケロイドが生じやすくなります。

傷の治癒が遅い場合

傷の回復が遅れることで炎症が長引き、ケロイドへと繋がることがあります。

浅い傷でも、かゆみで繰り返し掻いてしまったり、関節などで皮膚が引っ張られる状況が続くと、傷が悪化しやすく注意が必要です。

動きの多い部位の傷

胸や肩、下腹部、関節などの部位は、日常的な動作で皮膚が引き伸ばされやすく、傷の治りが悪くなりがちです。こうした部位では、ケロイドの発症リスクが高まります。

妊娠と女性ホルモンの影響

妊娠中にケロイドが悪化することがあります。

これは、エストロゲンやプロゲステロンといった女性ホルモンの増加により、血流が増えたり毛細血管が発達することが一因とされています。

高血圧

動脈硬化により血管が硬くなると、血流が速くなることで炎症が助長され、ケロイドの悪化に繋がる可能性があると考えられています。

全身性の強い炎症反応

大きな外傷や火傷、あるいは重篤な感染症などで体全体に強い炎症反応(サイトカインストーム)が起こると、通常であればケロイドにならないような小さな傷でも発症するケースがあります。

過度な飲酒や激しい運動

飲酒や入浴、運動によって血管が拡張し、血流が活発になることもケロイドの増悪に関係していると考えられます。そのため、傷のある部位に負荷がかかるような運動や、過度の飲酒は避けることが望ましいです。

遺伝的要因

詳しいメカニズムは解明されていませんが、ケロイドができやすい体質は親から子へと受け継がれる傾向があります。

ケロイドの治療

内服薬

ケロイドによる炎症やかゆみ、痛みの緩和には、「リザベン(一般名:トラニラスト)」という抗アレルギー薬がよく使用されます。炎症を抑える作用があり、自覚症状の軽減に効果的です。副作用としては、膀胱炎のような症状や肝機能への影響が報告されています。
感染が原因でケロイドが悪化している場合には、抗菌薬の併用が推奨されることもあります。また、漢方薬の「柴苓湯(さいれいとう)」も、補助的な治療として有効です。

ステロイド外用薬(塗り薬・テープ)

ステロイドには強い抗炎症作用があり、皮膚の線維細胞の増殖を抑える効果があります。
これにより、赤みやかゆみを和らげ、ケロイドを徐々に平坦にする効果が期待できます。
テープタイプのステロイド剤を使用する場合は、正常な皮膚に影響を与えないよう、病変の大きさに合わせて適切なサイズにカットして貼ることが重要です。

圧迫・固定両方(安静療法)

テープ、サポーター、シリコンゲルシート、スポンジ、コルセットなどを使用し、患部に過剰な力が加わらないよう安静を保つことで、炎症や血流を抑え、ケロイドの悪化を防ぎます。
また、圧迫によって衣類や動作による摩擦から患部を守ることで、症状の悪化を防止する効果もあります。

ステロイド注射

ケロイド内部に直接ステロイドを注射する治療法は、外用薬に比べて即効性が期待できる点が特徴です。
ただし、注射に伴う痛みや、周囲の皮膚が薄くなったり(皮膚の菲薄化)、毛細血管が広がったりする副作用が見られることがあります。また、月に1回程度の継続的な治療が必要となり、お薬が効きすぎると皮膚が窪む可能性もあるため、慎重な管理が必要です。

レーザー治療

血管をターゲットとするレーザーによって、ケロイド内の血流を減少させることで症状の軽減を図る治療法です。ただし、現在のところ健康保険の適用対象ではありません。

手術・放射線療法

保存的な治療で改善が見られない場合や、ケロイドの範囲が広い、拘縮によって動きに制限がある、見た目の問題が大きいといったケースでは、手術による切除が検討されます。

ただし、手術後の傷が新たなケロイドとなるリスクもあるため、再発防止の工夫が不可欠です。

当院では、症状に応じて、専門的な対応が可能な医療機関のご紹介も行っておりますので、お気軽にご相談ください。

ケロイドを放置するとどうなる?

ケロイドをそのまま放置しておくと、時間の経過とともに病変が広がり、線維成分が過剰に蓄積して硬くなることがあります。

特に関節付近にケロイドができた場合、皮膚が引きつれて可動域が制限される「瘢痕拘縮(はんこんこうしゅく)」という状態に進行することがあります。瘢痕拘縮が進行すると、日常生活や仕事に支障をきたす可能性もあります。このような状態になると、皮膚が再び柔らかくなるまでに長い時間がかかり、場合によっては手術が必要になることもあるため、早期の治療開始が重要です。

ケロイドの予防とセルフケア

ケロイド体質の方や、ご家族に同様の体質を持つ方がいる場合は、日常生活の中で皮膚に傷を作らないよう意識することが重要です。ニキビを予防する、不要な外科手術を避ける、ピアスを開けないなど、ちょっとした心がけがケロイドの発症予防に繋がります。