
「瞼が重く、視界が狭く感じる」
「人から眠たそうと言われることが増えた」
「昔の写真と比べて目元が変わった気がする」
このような違和感を抱いたことはないでしょうか。これは「眼瞼下垂(がんけんかすい)」の可能性があります。
眼瞼下垂は、瞼が下がることで視界が妨げられたり、顔全体が疲れて見えるようになる症状です。軽度のうちは気づかれにくく、「病院で診てもらったけれど異常なしと言われた」というケースも少なくありません。
また、「どこを受診すれば良いのか分からない」「保険適用で手術ができるのか不安」といった声もよく聞かれます。
本ページでは、眼瞼下垂の内容や診断方法、適切な医療機関の選び方、見逃さないためのチェックポイントについて丁寧に解説します。
思い当たる症状がある方は、ご自身の状態を見直すきっかけとして参考としてください。
そもそも眼瞼下垂とは?
眼瞼下垂とは、瞼を上げる力が低下し、十分に目が開かなくなる状態を指します。何らかの原因によって瞼が垂れ下がり、瞳孔(黒目の中心)が隠れてしまうと、視界が狭くなったり、見えづらくなったりします。
目を開けづらくなることで、額の筋肉を使って瞼を持ち上げようとするため、額にシワが刻まれたり、無意識のうちに筋肉が緊張して、肩こりや緊張型頭痛、眼精疲労などの症状を招いたりすることもあります。
眼瞼下垂の種類
後天性眼瞼下垂
後天性眼瞼下垂は、これまで普通に瞼を開けていた人が、ある時から瞼が下がるようになる状態です。徐々に進行する場合もあれば、急に現れることもあります。
なかでも多く見られるのが「腱膜性眼瞼下垂」で、これは瞼を引き上げる上眼瞼挙筋と、それを支える腱膜(挙筋腱膜)の繋がりが弱くなることで起こります。
腱膜が緩む原因としては加齢のほか、ハードコンタクトレンズの長期使用が関係しているケースも多く、白内障や緑内障、硝子体の手術後に見られることもあります。
先天性眼瞼下垂
先天性眼瞼下垂は、生まれつき上瞼が下がっている状態で、約80%が片側にのみ現れるのが特徴です。原因としては、上眼瞼挙筋の発達不良や、それを動かす神経の先天的な異常が考えられます。
視力の発達に影響し、稀に弱視や斜視の原因になることもあります。その場合は早期手術が必要ですが、そうでない場合は経過観察が一般的です。
手術の必要性や時期については、医師と十分に相談して判断することが重要です。
偽性眼瞼下垂
偽性眼瞼下垂とは、瞼を引き上げる筋肉に異常がないにもかかわらず、見た目として瞼が下がっているように見える状態で、「みかけの眼瞼下垂」とも呼ばれます。
主な原因は、瞼の筋肉が無意識に収縮する眼瞼痙攣です。この場合、通常の眼瞼下垂とは異なり、手術では改善が見込めないこともあるため、的確な診断が重要です。
医原性眼瞼下垂
医原性眼瞼下垂は、手術や処置が原因で瞼の開きが悪くなる状態を指します。特に、二重瞼の埋没法などの施術後に、腫れが引いたにもかかわらず目が開きにくくなるケースがあります。
このような状態では、眼瞼痙攣や頭痛といった症状を伴うこともあります。原因が埋没した糸にある場合は、それを除去することで改善が期待されます。
眼瞼下垂と一重はどう違う?
瞼が重く感じたり、目元がはっきりしないといった印象は、眼瞼下垂と一重瞼のどちらにも共通することがあります。そのため、見た目だけでは違いが分かりにくいこともありますが、両者は原因も対処法もまったく違います。
一重瞼は、生まれつき瞼に二重のラインが形成されていない状態で、医学的には正常な瞼の形です。視界を妨げることもなく、健康への影響もないため、治療の必要はありません。ただし、見た目の印象を変えたいという希望から、二重形成を望む方も少なくありません。
これに対して眼瞼下垂は、瞼を持ち上げる眼瞼挙筋の機能が低下したり、筋肉を支える腱膜が緩んだりすることで、瞼が下がる状態です。見た目の変化だけでなく、視界が狭くなったり、無意識のうちに額に力が入ることで、頭痛や肩こり、目の疲れといった不調を招いたりすることもあります。
眼瞼下垂は進行すると生活に支障をきたすこともあるため、早めの診断と適切な治療が求められます。外見だけで判断するのは難しいため、少しでも気になる症状がある場合は、当院までご相談ください。
眼瞼下垂の診断基準
眼瞼下垂の診断は、主に3つの検査で行われます。黒目と上瞼の距離を測る「MRD-1」、目の開き具合を見る「瞼裂高」、瞼を持ち上げる筋肉の動きを確認する「挙筋機能検査」が代表的です。
ただし、眼瞼下垂にははっきりとした基準はなく、これらの検査結果はあくまで参考とされます。
MRD
MRDは、瞼の開き具合を測定する指標で、2つの測定値に分類されます。
- MRD-1:瞳孔の中心から上瞼の縁までの距離
- MRD-2:瞳孔の中心から下瞼の縁までの距離
このうち、MRD-1は眼瞼下垂の重症度を評価する際に特に重要とされています。
MRD-1の目安は以下の通りです。
- 正常:2.7~5.5mm
- 軽度:約1.5~2.7mm
- 中等度:約-0.5~1.5mm
- 重度:-0.5mm未満
※MRD-2の測定により、上下および左右の瞼の位置関係も把握できます。
瞼裂高
瞼裂高とは、黒目(角膜)の最下端から上瞼の縁までの距離を指し、黒目の見え方によって眼瞼下垂の程度を評価する際に用いられます。
目安は以下の通りです。
- 正常:約10mm以上
- 軽度~中等度:約6~9mm
- 重度:5mm以下
挙筋機能検査
上瞼を持ち上げる眼瞼挙筋の働きを確認するための検査です。以下の手順で行い、筋機能の程度を評価します。
- 額の筋肉を使わないよう、親指で眉の上をしっかり押さえます。
- そのままの状態で、目線を最大限下から上へ動かし、瞼の移動距離を測定します。
- 測定した距離により、眼瞼挙筋の機能を評価します。
評価基準は以下の通りです。
- 正常;8mm以上
- 軽度〜中等度:4~7mm
- 重度:3mm以下
※腱膜性眼瞼下垂は、腱膜の付着位置がわずかにずれているだけで、挙筋自体の機能には影響がありません。
※挙筋機能の低下がある場合、筋肉やそれを動かす神経に障害がある可能性があります。
※急に瞼が下がった場合は、脳梗塞や脳動脈瘤、糖尿病に起因する動眼神経麻痺の可能性があり、CTやMRI、血液検査などの精査が必要です。
※朝は開いていても、夕方にかけて開きにくくなるような日内変動が目立つ場合、重症筋無力症が疑われ、血液検査での確認が推奨されます。
眼瞼下垂と診断されない理由とは?
「瞼が下がってきた」と感じて受診したのに、医師からは「異常はない」と言われたという方は意外と多く、ネット上でも「眼瞼下垂だと思ったのに違うと言われた」といった声も多いです。
では、なぜ眼瞼下垂のような症状があっても診断がつかないことがあるのでしょうか。
以下では、眼瞼下垂と診断されない主な理由についてご紹介します。
軽度の症状は見逃されやすい
眼瞼下垂かどうかを判断する際には、「MRD-1(Margin Reflex Distance-1)」という指標が使われます。これは瞳孔の中心から上瞼の縁までの距離を測るもので、2.7mm以下が診断基準とされます。
ただし、症状が軽い場合は経過観察となることもあります。また、軽度の眼瞼下垂は外見の変化が乏しく、違和感があっても「異常なし」とされることもあります。
偽性眼瞼下垂との見分けが難しい
眼瞼下垂と間違えられやすい状態に、「偽性眼瞼下垂」があります。これは、瞼を引き上げる筋肉そのものには異常がなく、皮膚のたるみや眼瞼痙攣など、別の要因によって瞼が下がって見える状態を指します。
一見すると眼瞼下垂に見えるため、混同されがちですが、筋肉の働きに問題がないため、治療の対象外とされることもあります。
症状の自覚が乏しい、もしくは軽視されやすい
眼瞼下垂に伴う頭痛や肩こり、瞼の重さといった不調は、日常的によくある症状のため、瞼の異常が原因とは気づかれにくい傾向があります。
その結果、患者様が眼瞼下垂との関連に気づかず、医師にも正確に伝えられないことがあります。訴えが曖昧だったり情報が不足していたりすると、診断も難しくなります。
医療機関の専門性によって診断に差が出ることも
眼瞼下垂の診断には、眼形成の専門的な知識と経験が求められます。一般的な眼科や美容外科では、診断基準や症状の捉え方が異なることがあり、医療機関によって判断に差が出る場合があります。
特に保険診療を前提とする場合には、「視野にどの程度の影響があるか」といった点が重視され、軽度のケースでは診断がつかないこともあります。
診断されなかったときの対応
診断に納得できない場合や、瞼の違和感が続いて気になる場合は、眼瞼下垂の診断・治療を専門とする医療機関での再評価を検討してみてください。受診の際には、日常生活への影響や瞼の変化などを具体的に伝えることで、より正確な診断に繋がります。
眼瞼下垂の診断はどこで受ける?
「瞼が下がってきた気がするけれど、どこに相談すれば良いのか分からない」と戸惑う方は少なくありません。実際、眼瞼下垂の診断や治療は医療機関によって対応に違いがあるため、最初に受診する診療科の選択が非常に大切です。
基本は眼科または形成外科
眼瞼下垂の診察を希望する場合、主な受診先としては「眼科」または「形成外科」が挙げられます。
眼科
眼科では、視力や視野の検査を含め、瞼の状態を総合的に評価してもらえます。特に保険診療で手術を受けたいと考えている方にとっては、視野障害の有無が重要な判断材料となるため、まずは眼科を受診するのが一般的です。
形成外科(特に眼形成外科)
形成外科、なかでも眼形成外科では、瞼の構造や筋肉の動き、見た目のバランスまで含めた評価を専門的に行います。眼瞼下垂の手術経験が豊富な医師に診てもらうことで、軽度の症状でも見落とされにくく、適切な治療に繋がりやすくなります。
眼科と形成外科の違い
| 比較項目 | 眼科 | 形成外科(眼形成) |
| 主な診察目的 | 視野障害や視機能の評価を重視 | 見た目と機能の両面から瞼の状態を総合的に評価 |
| 保険適用判断 | 視野の遮りが一定以上あるかどうかに基づいて判断 | 基本的には眼科と同様。視野検査の結果を重視 |
| 手術実績 | 医師によって異なる。外科手術の実施は比較的少ない場合もある | 専門医であれば眼瞼下垂手術の豊富な実績あり |
| 美容目的対応 | 審美的な対応は基本的に行っていない | 美容的改善を含めた相談・手術にも対応可能 |
美容クリニックとの違い
「目元をはっきりさせたい」「印象を変えたい」といった美容目的の場合、二重整形や眼瞼下垂の施術を行う美容クリニックを選ぶ方もいます。こうした施設では見た目の美しさを重視するため、保険が使えないのが一般的です。
一方、視野の遮りや瞼の重さなど機能的な問題を改善したい場合は、医療的観点で診療を行うクリニックを選ぶことが重要です。
迷ったら専門医のいる病院へ
眼瞼下垂は、特に軽度の症状では見逃されやすく、一般の眼科では診断がつかないこともあります。そのような場合は、治療経験が豊富な形成外科や眼形成外科の受診を検討すると良いでしょう。
受診先を選ぶ際は、病院のホームページで「手術実績」や「眼形成専門医の在籍」などの情報を確認するのがポイントです。
眼瞼下垂手術の適応基準
眼瞼下垂をはじめとする瞼の疾患は、すぐに治療が必要となる緊急性の高いケースは比較的少ないです。そのため、当院では眼瞼下垂と診断された方に対しても、「手術の適応がある状態です」とお伝えすることはあっても、「手術をすべきです」と一方的に勧めることはいたしません。
手術が適応となるかどうかは、瞼の下がり具合(進行の程度)、ご本人の自覚症状、瞼を持ち上げる筋肉(挙筋)の機能など、様々な要素を総合的に評価した上で判断されます。手術によるメリットが明らかにデメリットを上回ると判断された場合に、初めて治療の選択肢としてご案内しています。
眼瞼下垂手術の判断基準
「どの程度の症状から手術が必要になりますか?」というご質問は、眼瞼下垂にお悩みの方からよく頂くものです。
当院では、たとえ症状が軽度であっても、眼瞼下垂に特有の不快な症状があり、手術によって改善が見込まれると判断された場合には、手術の適応があると考えています。
ただし、眼瞼下垂手術はあくまでも最終的な手段であり、診察や詳細な説明を通じて、手術のメリットとともにデメリットも十分にご理解頂いた上で、慎重にご判断頂くことを大切にしています。
眼瞼下垂症の保険適用の判断条件
眼瞼下垂手術が健康保険の対象となるには、以下の条件を満たしている必要があります。
- 医師により「重度の眼瞼下垂症」と診断されていること
- 美容目的ではなく、視野障害や機能低下などの医学的な治療が目的であること
- 国が認めた治療法、または厚生労働省に承認された薬剤が用いられること
眼瞼下垂の手術に保険が適用されない場合
保険診療と自費診療のどちらであっても、手術の質に大きな差はありません。
ただし、次のようなケースでは、当院では保険適用外(自費診療)でのご案内となります。
眼瞼下垂の診断を受けていない場合
眼瞼下垂と認められなかった場合、保険診療による治療は受けられません。
ただし、目の開き具合に違和感がある、もっと大きく見える目元にしたいといったご希望がある方には、自費診療という選択肢もあります。
美容が主目的の場合
例えば「二重の幅を広くしたい」といった見た目の印象に強いこだわりがある方は、自費診療をご案内することがあります。眼瞼下垂手術における二重の仕上がりは、瞼の構造や筋肉の動きなど、複数の要素が関係しており、その全てを意図通りにコントロールするのは難しいのが実情です。
保険診療で行う手術は、あくまで開瞼機能(目を開ける力)の改善を目的としており、審美的な仕上がりに対する細かなご要望に必ずしも応えられるわけではありません。例えば、広めの二重をご希望される場合、逆に開瞼不良や「ハム目」といった仕上がりのリスクに繋がる可能性もあります。
※当院では、保険適用の可否は診察・診断後に判断しております。機能的な異常が認められない場合には自費診療をご案内させて頂くことがあり、より専門的な対応が必要な場合には、近隣の大学病院をご紹介いたします。
まとめ
眼瞼下垂は、初期には見た目の変化だけで気づかれにくいこともありますが、放置すると視野の狭まりや眼精疲労、頭痛、肩こりなどの不調を引き起こすことがあります。原因は加齢だけでなく、コンタクトレンズの長期使用や日常の習慣が影響することも多く、自己判断が難しいケースも少なくありません。
「もしかして眼瞼下垂かも」と感じたら、眼科や形成外科(特に眼形成を専門とする医師)での評価を受けることが大切です。症状が軽い場合でも、生活に支障が出ていることや自覚している不快感を丁寧に伝えることで、診断の精度が高まります。
また、診察の結果に納得がいかない場合や症状が残る場合は、セカンドオピニオンを検討しましょう。医療機関ごとに診断や対応方針は異なるため、眼瞼下垂の診療経験が豊富なクリニックや専門外来を選ぶことが重要です。
目元に違和感がある方は、気になる症状を見過ごさず、できるだけ早めに当院までご相談ください。
